大田原市

里山での暮らしを
味わっています

里山で出会った築150年の古民家を再生し、
珈琲と本のお店を開く

大田原市の山深い里山を車で走らせていくと、大きな古民家が点在する集落へたどり着く。
そこをさらに進むと、景色の開けた風通しのよい一本道の途中に千田拓真さんとこずえさんの家はあった。
千田さんは長く暮らした東京を離れ、ご夫婦で沖縄に移住、そして2024年の冬に那須へ拠点を構え、里山の暮らしを始める。
デザイナーとして制作活動を続けながら、現在は古民家を再生し、山吉商店という珈琲と本のお店を営んでいる。
「移住してからは暮らしを作ることが自然と日々の中心です」と語る千田さんの話にゆったりと耳を傾けた。

移住者のご紹介

移住者写真

千田拓真さん

2024年に沖縄県から移住。
大田原市にて、古民家を再生し、ご夫婦で暮らしを整えながら、2歳の娘さんと愛猫一匹とおだやかな暮らしを送っている。
妻のこずえさんと珈琲と本のお店「山吉商店」を構える。薪を使って珈琲を焙煎し、地域の作り手の作品や本を紹介する場にしたいと考え、2025年秋からオープンを予定している。

なぜ大田原市へ? 自分たちの手で暮らしを整えられる環境へ

「東京にいた頃は自分一人ではなんにもできなかったなと思います。震災が起きれば、水もなくなり、トイレも行けないという経験もしました。仕事に費やす時間ばかりで、心が休まる時間もなかったですね。都会に生きているとできない暮らしがあることに気付き、東京を離れ、妻と沖縄へ移住し、4年ほど暮らしました」。

その後、那須に移住することを検討したきっかけは、ご夫婦の間に娘さんが生まれたこと。拓真さんは宮城県・仙台出身、妻のこずえさんは栃木県・那須町出身だ。
互いの両親が孫に会える機会を持てる拠点を探したいという思いもあって、住まいを探し求める中で、大田原市の移住相談窓口を通じて紹介があったのが現在お住まいの古民家だったという。

この家は、かつて「山吉」という屋号を持っていたそうです。その歴史に敬意を込めて、私たち自身で「山吉商店」という名前を新しくつけ、本と珈琲のお店として再生させています。もともと古い建物や土地に残されたものに惹かれる性格なので、偶然出会ったこの古民家には運命を感じたんです。修繕を重ねながら、地域のものづくりや文化を伝えられる場にしていきたいと考え、日々整えながら暮らしています」。

那須に移住後の暮らしの変化 生きる力をつけて、自由を手に入れる

「沖縄での生活も面白かったんですけど、私たちにとって那須はより自由に動ける環境だなと思います。生きる力をつけたいと思っていた中で、ここでは災害があったとしても、自分の家族が幸せに暮らせて、近くの人を助けられて、友達だって呼べる。水道は通っていないですが、井戸水ですごく綺麗なお水がそのまま飲めますし、家の前には常に綺麗な小川が流れています。震災の際は水の確保がとても困難になるかと思いますが、ここはその心配もないです。こちらに来てから、狩猟を行う方々と関わる機会があり、猪の解体に立ち会わせてもらいました。仕留める瞬間から捌く過程を目の当たりにし命をいただくという行為の重さを深く感じました。包丁を握る手は重く、その一つひとつの所作の裏に、尊い命への責任と感謝があることを思い知らされました。これまでスーパーで肉を買うだけでは気づけなかった、生きものの存在の重みを直接受け止める体験でした。妻も頑張って畑の野菜を育てているんですが、完全無農薬の農法を始めて、びっくりするくらい大きく野菜が育っています。朝起きたら、娘は畑へ野菜を食べに行って、『おいしい。』と言う姿を見ていると、やっぱり嬉しいです。そんな経験、小さい頃に僕はしたことないので、しあわせだなぁと思いますね」。

里山での子育て環境と地域の魅力 四季を感じながら、
ごく身近な方々との密な交流を楽しむ

「この地域は街中と違って人は少ないのですが、その分ご近所とのつながりはとても濃く、偶然の出会いにも恵まれました。隣の方とも仲良くなり、毎日のようにお茶を共にしています。娘のことも温かく見守ってくださっていて、こうした人との密な関係は田舎ならではの面白さだと感じます。家の前には杉がぎっしりと立っていましたが、冬になれば葉を落とす広葉樹は残しつつ、杉を伐採してもらいました。そのおかげで奥の清流まで降りられるようになり、作業で汗をかいたあとには、家族で川遊びを楽しんでいます」。

「里山に移り住んで、自然の豊かさと、四季折々の食の豊かさを感じました。春になると、近隣のおじいちゃんおばあちゃんたちは大忙しですよね。山菜とるのに一生懸命になって、『佃煮作っていたら今日も寝不足だわ。』と言っていました(笑)。那須での暮らしは、自然と共存しながら、山や畑の季節の変化を感じられて、すごく贅沢ですし、こっちに来てよかったなと実感しています」。

自然豊かな地でのものづくり 自分のブランドを持ち、
目の前の自然を大切に活かす

東京ではイベントやショー、展示会の企画などにも携わり、刺激的な日々を送っていた拓真さん。だんだんとそのスタイルは変化し、自分の表現を大切にしたいと考え、デザイン制作会社を設立。さらに、さまざまな土地を渡り歩いた経験から、ものづくりにも変化が起きたという。
「東京から沖縄へ、そして那須に移り住んだ経験から、自然のものを利用し、インスピレーションを得て作っていきたいという思いが大きくなっていきましたね。元々シンプルなものが好きだったんですけど、よりシンプルなデザインを心がけながら柔らかい表現をするようになりました。東京にいた時は尖ってる表現が多かったんですけど、全く削ぎ落とされましたね。大きな自然に囲まれて暮らしていると、自然を大切にしていけるデザインを重視するようになり、今は自分のブランドを持ってお香を作ったりしています」。

移住を考えている方へ 那須で素敵に暮らす人から贈るメッセージ

「自然が好きで、自分でものづくりしたい人や自分で工夫して暮らすことを楽しめる人にはが向いていると思います。便利さだけを求めると、難しいですが、暮らしを一緒に作る感覚を持てる人には最適です」。

 

NINEWORKS.Inc
https://nineworks.jp/

 

山吉商店
https://shop.yamakichi-shoten.com/

 

山吉商店インスタ
https://www.instagram.com/yamakichi_shoten

記事を書いた人

村山愛那

編集

2021年に夫婦で東京から那須塩原市に移住。都内では制作会社プロデューサーや保育士として勤め、活動の場を那須に移し、デザインとことばをつくる会社Picnic.Incを設立。道の駅「明治の森・黒磯」の商品デザインを手がけるなど、那須エリアでの仕事にも携わる。山のふもとに、平家とアトリエを構え、娘の編(3)と愛犬2匹と暮らしている。

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